横浜地方裁判所 昭和62年(行ウ)2号 判決
横浜市保土ヶ谷区岩井町三〇番地
原告
保土ヶ谷再開発株式会社
右代表者代表取締役
福田雄次郎
右訴訟代理人弁護士
中吉章一郎
同区帷子町二丁目六四番地
被告
保土ヶ谷税務署長
金田裕俊
右訴訟代理人弁護士
島村芳見
同指定代理人
石黒邦夫
同
山田文夫
同
宮路正子
同
原敏之
同
村田太一郎
同
小林洋嗣
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
被告が原告の昭和五八年六月一日から同五九年五月三一日までの事業年度の法人税について同五九年一二月二五日付けでした更正処分を取り消す。
被告が昭和六〇年五月二九日付けでした右法人税の過少申告加算税賦課決定を取り消す。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
一 原告の請求原因
1 原告は不動産売買業を営む非同族会社であるが、昭和五八年六月一日から同五九年五月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、同五九年七月三一日別表一の確定申告欄記載のとおり法人税の確定申告をしたところ、被告は同年一二月二五日付けで同表の更正・賦課決定欄記載のとおり更正(以下「本件更正処分」という。)及び重加算税賦課決定をした。
2 原告が右処分を不満として被告に異議申立てをしたところ、被告は右重加算税賦課決定のみ取り消して本件更正処分に対する異議申立てを棄却し、昭和六〇年五月二九日付けで新たに別表一の賦課決定欄記載のとおり過少申告加算税の賦課決定(以下「本件賦課決定」といい、本件更正処分と併せて「本件処分」という。)をした。
そこで原告は、本件更正処分について国税不服審判所長に審査請求するとともに、本件賦課決定についても被告に異議の申立てをしたが、国税通則法九〇条により右異議申立てにかかる本件賦課決定について審査請求されたものとみなされたうえ、昭和六一年一一月一八日いずれについても審査請求を棄却された。
原告の確定申告、被告の処分及び不服申立ての経緯は別表一記載のとおりである。
3 しかしながら、本件処分は、原告がその所得にかかる横浜市保土ケ谷区岩井町一六番一宅地三八〇・四一平方メートル(以下「本件土地」という。)を昭和五八年七月二九日株式会社木内ハウジング(以下「木内ハウジング」という。)に対して売却したことを前提としてされているが、右は事実を誤認した違法な処分であるから取り消されるべきである。
4 これを更に詳述すれば、左記のとおりである。
(一) 原告は、保土ケ谷駅周辺市街地再開発事業の一部として店舗付共同住宅(名称「シャトーダイアナ」、以下「本件ビル」という。)の建築とその一部の分譲を計画し、昭和五八年四月二二日建築確認を得た。
(二) その後、木内建設株式会社(以下「木内建設」という。)が本件ビルの建築を二億五〇〇〇万円で請け負うこととなつたが、本件土地についてそれぞれ株式会社保土ケ谷ビル(以下「保土ケ谷ビル」という。)を債務者として、日本信託銀行株式会社(以下「日本信託銀行」という。)を債権者とする極度額二億円の根抵当権及び松井建設株式会社(以下「松井建設」という。)を債権者とする一億円の抵当権(以下「本件根抵当権」という。)が設定されていたため、木内建設は本件ビルの分譲を順調に進めるために本件根抵当権等を抹消してほしい旨原告に依頼し、これを受けた原告と保土ケ谷ビル及び木内建設が協議の上、左記の合意に達した。
(1) 木内建設の系列会社である木内ハウジングが保土ケ谷ビルに三億円を貸し付け、保土ケ谷ビルが同金員をもつて前記各被担保債務合計三億円を弁済し、本件根抵当権を抹消する。
(2) その見返りとして、原告が木内ハウジングに対して代物弁済又は譲渡担保として本件土地の所有権を移転する。
(3) 右借受金三億円については、原告が本件ビルの分譲代金から五〇〇〇万円を弁済し、残りの二億五〇〇〇万円を保土ケ谷ビルが、弁済する。
(4) 本件ビルの三階以上を総額三億六〇〇〇万円で分譲し、これをもつて建築代金を支払う。
(5) 木内建設に対して右三億円が弁済されたときは、同社は本件ビルの一階及び二階部分(所有権敷地権付、以下「本件区分建物」という。)を原告に返還する。
(三) 右合意に基づいて、昭和五八年七月二九日木内ハウジングから保土ケ谷ビルに対して三億円が貸し付けられ、原告はその見返りとして本件土地を代物弁済又は譲渡担保に供することとなつたが、その際木内建設側の事情で、形式的に原告を売主、木内ハウジングを買主とし、売買代金を三億円とする本件土地の売買契約書を作成して売買の形式をもつて処理したため、本件土地について売買を原因とする所有権移転登記がされた。しかし、その実体は代物弁済又は譲渡担保であつて、原告が木内ハウジングから本件土地の売買代金として三億円を受領した事実はないのであるから、原告に譲渡所得は発生していない。
しかも、原告は、右代物弁済又は譲渡担保の効果として、本件土地の所有権を失い、その代わりに保土ケ谷ビルに対する求償権を取得したが、同社に支払能力はないから、求償は不能である。
(四) また、右合意の趣旨は、全体として見ると三億円の金銭消費貸借契約と不動産の交換契約(本件土地と本件区分建物との交換)との混合契約であるとも解され、いずれにしても便宜売買の形式をとつてされたに過ぎず、売買の実体はない。
(五) 仮に、本件土地が売買されたものであるとしても、本件土地は租税特別措置法(以下「措置法」という。)六五条の七第一項の表一一上欄に規定する譲渡資産であり、買い受けた本件区分建物も同表下欄の買換資産に該当するので、同条同項により、本件土地の譲渡価格三億円から買換資産の取得価格二億五〇〇〇万円と譲渡資産である本件土地の取得価格等一億一二八〇万八四四〇円を控除すべきであるから、本件土地の譲渡について譲渡所得は存しないこととなる。
5 よつて、原告は本件処分の取消しを求める。
二 被告の認否
1 請求原因1、2記載の各事実はいずれも認める。
2 同3は、本件処分が違法であるとの主張を争うが、その余の事実は認める。
3(一) 同4(一)の事実のうち、原告が原告所有の本件処分土地上に本件ビルの建築とその一部の分譲を計画し、昭和五八年四月二二日建築確認を得たことは認めるが、その余は知らない。
(二) 同(二)の事実のうち、本件根抵当権等の存在は認めるが、その余は否認する。
(三) 同(三)のうち、原告主張のとおり各担保が設定されていたこと、これが抹消されたこと、本件土地について原告と木内ハウジングの間で代金を三億円とする売買契約書が作成され、売買を原因として原告から木内ハウジングに対して本件土地の所有権移転登記がされたことは認めるが、その余は知らず、代物弁済又は譲渡担保であることは否認する。
(四) 同(四)は否認する。
(五) 同(五)は否認ないし争う。
三 被告の主張
1 本件土地売買の経過
(一) 原告は同社が所有する本件土地上に本件ビルを建築することを計画し、木内建設に対して建築工事を発注しようとした。
ところが、本件土地について保土ケ谷ビルを債務者とする本件根抵当権等が設定されており、しかも、原告に建築資金調達のめどが立つていなかつたことから、本件ビルの建築工事代金回収に危惧の念を抱いた木内建設は、同社の関連会社である木内ハウジングが原告から本件土地を買い取り、木内ハウジングが本件ビルの建築工事を発注することを提案し、原告もこれを了承した。
その結果、原告は、昭和五八年七月二九日、本件土地を木内ハウジングに代金三億円で売却する旨の同日付け売買契約書を作成して、本件土地を同社に売却し、同日木内ハウジングから代金三億円(額面二億円と一億円の小切手各一通)を受領した上、これを直ちに保土ケ谷ビルに貸し付け、同社をして日本信託銀行及び松井建設に対する前記債務を弁済させて本件根抵当権等を抹消させ、同日木内ハウジングに対し本件土地の所有権移転登記をした。
(二) また、原告は、右同日付けで木内ハウジングとの間に本件区分建物を代金二億五〇〇〇万円で買い受ける旨の売買契約書を作成し(但し、その後の仕様変更により代金は二億四四五〇万円に変更された。)本件ビル完成後の同五九年六月一二日その引渡しを受けて本件区分建物の所有権を取得したが、保土ケ谷ビルが第一火災海上保険相互会社(以下「第一火災海上」という。)から二億円の融資を受ける担保とするため、右同日、本件区分建物について保土ケ谷ビルの所有権保存登記をなした上、右二億円の債権を被担保債権として抵当権設定登記をした。
そして、本件区分建物の代金は、保土ケ谷ビルが第一火災海上から融資を受けた金員(但し、振込を受けた金額は一億九五七三万一七九円)と保土ケ谷ビルが振り出した約束手形及び小切手によつて支払われ、他方原告は、本件区分建物を昭和五七年一二月二五日付け賃貸借予約契約に基づいて株式会社富士スーパー(以下「富士スーパー」という。)に賃貸した。
(三) 原告は、本件事業年度において、本件土地を資産として計上するとともに、木内建設からの借入金三億円及び保土ケ谷ビルに対する仮払金三億円を計上していたが、翌事業年度には、昭和五九年六月二二日付けで本件土地の帳簿価格一億〇九二四万三三〇〇円を本件区分建物の底地部分四四七一万〇七四〇円と建物部分六一五三万二五六〇円とに按分計算の方法で帳簿価格の付け替えをしている。
他方、保土ケ谷ビルは、本件事業年度において原告からの仮受金三億円を計上していたが、翌事業年度にはこれを木内建設からの借受金三億円に振り替える帳簿処理をしている。
(四) これらの事実経過に照らすと、原告は本件土地を三億円で木内ハウジングに譲渡し、受領した売買代金を直ちに保土ケ谷ビルに貸し付けた上、翌事業年度にその返済を受け、右返済金をもつて本件区分建物を取得したものである。
2 本件更正処分の適法性
(一) 所得金額について
原告の本件事業年度の所得金額は、申告欠損金額に土地譲渡収入計上漏れ金額及び雑費否認金額を加算した金額から土地譲渡原価認容金額を控除した一億八二九三万八三五三円である。
(1) 申告欠損金額 七七五万二九八七円
原告が昭和五九年一二月二五日付けで被告に提出した本件事業年度の法人税の確定申告書に記載した欠損金額である。
(2) 土地譲渡収入計上漏れ 三億円
原告が本件土地を木内ハウジングに売却した代金三億円を益金に算入しなかつたので、右三億円を所得金額に算入した。
(3) 雑費否認 三四九万九七八〇円
原告が雑費勘定に計上した金額のうち使途が明らかでないため損金算入を否認して所得金額に算入した金額である。
(4) 土地譲渡原価認容 一億一二八〇万八四四〇円
右(2)の土地譲渡収入に対応する原価であり、その内訳は別表二記載のとおりである。
(二) 課税土地譲渡所得金額について
原告は、昭和五三年九月三〇日に取得した本件土地を本件事業年度中の同五八年七月二九日木内ハウジングに譲渡したが、右譲渡による利益金額は措置法六三条(但し、昭和六二年三月法律第一四号による改正前のものであり、以下において同じ。)の規定に基づく特別税率の適用を受ける。
その場合の原告の課税土地譲渡所得金額は次のとおり一億三三〇六万四三三九円(左記(1)の金額から(2)、(3)、(4)の各金額を控除した金額)となる。
(1) 土地の譲渡等による収益の額 三億円
租税特別措置法施行令(以下「措置令」という。)三八条の四第四項一号に規定する譲渡の対価である。
(2) 右原価 一億一二八〇万八四四〇円
措置令三八条の四第五項一号に規定する譲渡直前の帳簿価格である。
(3) 負債利子 三二四七万六三三三円
措置令三八条の四第六項一号の規定に基づいて計算される、本件土地保有のために要した負債利子の額である。
(4) 販売費及び一般管理費 二一六五万〇八八八円
措置令三八条の四第六項二号の規定に基づいて計算される、本件土地譲渡のために要した販売費及び一般管理費の額である。
(三) 以上のとおり、原告の本件事業年度の所得金額は一億八二九三万八三五三円であり、課税土地譲渡所得金額は一億三三〇六万四三三九円であるから、これと同一金額を認定してされた本件更正処分は適法である。
3 本件賦課決定の適法性
被告は、本件更正処分をしたことに伴い、国税通則法六五条一項(但し、昭和六二年九月法律第九六号による改正前のものである。)及び二項の規定に基づき、本件更正処分により納付すべき本税の額一億〇四八四万〇九〇〇円(但し、昭和五九年三月法律第五号による改正後の同法一一八条三項により一万円未満を切捨てる。)に一〇〇分の五の割合を乗じて計算した金額に、右本税の額一億〇四八四万〇九〇〇円のうち五〇万円を越える部分の金額(但し、同項により一万円未満を切捨てる。)に一〇〇分の五の割合を乗じて計算した金額を加算した金額(但し、昭和六二年九月法律第九六号による改正前の同法一一九条四項により一〇〇円未満を切捨てる。)を過少申告加算税として賦課決定したものであるから、本件賦課決定は適法である。
4 原告の主張(請求原因4)に対する反論
(一) 原告は、本件土地が保土ケ谷ビルの木内ハウジングに対する債務の代物弁済または譲渡担保として所有権の移転がされたもので、原告は代金を受領しておらず、譲渡益は生じていない旨主張する。
しかし、保土ケ谷ビルは木内ハウジングに対し何らの債務を負つていなかつたし、契約書や帳簿上も代物弁済または譲渡担保を窺わせるものがなく、被告が主張するとおり売買であることは明らかである。
また、仮に譲渡担保であつたとしても、昭和五九年二月二八日本件ビルが完成し、その後原告や第三者らに分譲されていることからすれば、本件土地は本件事業年度中に原告から木内ハウジングに支配が移転しているから、譲渡益が本件事業年度の収益に計上されることはいうまでもない。
(二) 原告は、保土ケ谷ビルに対する求償権の行使が不可能であるとも主張しているが、前記のとおり原告は本件区分建物を取得するための資金を保土ケ谷ビルに出捐させており、原告の保土ケ谷ビルに対する債権を行使しているから、原告の主張には理由がない。
(三) さらに、原告は、原告と木内ハウジングとの間で本件土地と本件区分建物との交換契約と金銭消費貸借契約との混合契約がされた旨主張するが、原告と木内ハウジングとの間の覚書(乙第一号証の二)をもつて金銭消費貸借契約書とみることはできない上、本件ビルの建築工事請負契約の建築主は木内ハウジングであり、本件ビルの分譲の権利も木内ハウジングが有していたことに照らしても本件取引が売買であることは明らかである。
(四) なお、原告が本件区分建物を取得したのは翌事業年度であるから、原告が措置法六五条の七第一項に規定された課税の特例を翌事業年度に受けるためには、本件事業年度において同条の八第一項に基づく特別勘定の繰入れを行い、確定申告の際に同第七項により大蔵省所定の書類を添付しなければならないところ、そのいずれもがされていない以上、右特例の適用を受ける余地はない。
四 原告の認否
1(一) 被告の主張1(一)の事実のうち、原告が原告所有の本件土地上に本件ビルの建築を計画し、木内建設に対して建築工事を発注しようとしたこと、本件土地に本件根抵当権等が設定されていたこと、原告と木内ハウジングとの間に代金を三億円とする昭和五八年七月二九日付け売買契約書が作成されていること、同日木内ハウジングから額面二億円と一億円の小切手各一通が支払われたこと、同日保土ケ谷ビルは本件根抵当権等の被担保債務を返済し、本件根抵当権等が抹消されたこと、同日木内ハウジングに対して本件土地の所有権移転登記手続がされたことは認めるが、その余は否認する。小切手二通を受領したのは保土ケ谷ビルである。
(二) 同(二)の事実のうち、本件区分建物が売買されたことは否認するが、その余は認める。
(三) 同(三)の事実は認める。
(四) 同(四)の主張は争う。
2(一) 同2(一)の事実のうち、(1)は認める。(2)は、被告主張の三億円を土地譲渡所得として申告しなかつたことは認めるが、本件土地が譲渡されたとの点は否認する。(3)の雑費否認の効果は争わない。本件取引が売買であると認定された場合にその原価が(4)記載のとおりとなることは認める。
(二) 同(二)のうち、本件取引が売買であることは否認するが、本件取引が売買であるとされた場合に被告主張の(2)ないし(4)の各金額が控除されるべきことは認める。
(三) 同(三)の主張は争う。
3 同3の主張は争う。
4 同4(四)の事実は否認し、主張は争う。
本件区分建物は、前記昭和五八年七月二九日の契約により、本件ビルが同五九年二月二八日完成した時点で原告の所有に帰していたが、保土ケ谷ビルの借受金の返済が遅れていたため未だ担保権の対象となつていたに過ぎない。
第三証拠
証拠は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 請求原因1、2記載の各事実(本件処分及びその後の不服申立ての経緯)は当事者間に争いがない。
二 そこで、本件処分の適否について検討する。
1 本件土地売買の存否
(一) 原告が同社所有の本件土地上に本件ビルの建築を計画し、木内建設に対して建築工事を発注しようとしたこと、本件土地に本件根抵当権等(日本信託銀行を債権者とする極度額二億円の根抵当権及び松井建設を債権者とする一億円の抵当権)が設定されていたこと、昭和五八年七月二九日付けで原告と木内ハウジングとの間に、原告が木内ハウジングに対し本件土地を三億円で売却する旨の売買契約書及び木内ハウジングが原告に対し本件区分建物を代金二億五〇〇〇万円で売却する旨の売買契約書がそれぞれ作成されてこと、同日木内ハウジングから三億円(額面二億円と一億円の小切手各一通の交付)が支払われたこと、同日保土ケ谷ビルは本件根抵当権等の被担保債務を返済し、本件根抵当権等が抹消されたこと、同日木内ハウジングに対して本件土地の所有権移転登記がされていること、原告が富士スーパーとの間で昭和五七年一二月二五日付け賃貸借予約契約を締結し、その後これに基づいて本件区分建物を富士スーパーに賃貸したこと、以上の事実は当事者間に争いがない。
(二) 次に、右争いのない事実に原本の存在と成立に争いのない乙第一号証の一、二、第二号証、第八号証、第一五号証、成立に争いのない乙第三号証、第四号証の一、原告代表者福田雄次郎尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第五号証、証人野村友春の証言及び原告代表者福田雄次郎尋問の結果(但し、後記の信用しない部分を除く。)によると、以下の事実を認めることができる。
(1) 原告は昭和五七年初め頃一、二階部分(すなわち、本件区分建物)を自己の所有として残し、三階以上の部分を分譲する方針で本件ビルの建築を計画し、同年一二月二五日富士スーパーとの間で本件区分建物の賃貸借予約契約を締結し、翌五八年一月以降本件ビルの三階部分の分譲を進めるとともに、西松建設株式会社に対し本件ビルの建築工事を発注しようとしたが、本件土地に保土ケ谷ビルを債務者とする極度額合計三億円の本件根抵当権等が設定されていたため、受注を拒否され、同年六月下旬に木内建設を紹介された。
(2) そこで、原告が木内建設との間で協議した結果、同社が本件ビルの建築を代金二億五〇〇〇万円で請け負う旨一応の合意に達したが、その際木内建設から本件ビルの三階以上の部分の分譲に支障があるとして本件根抵当権等の抹消を求められたものの、原告あるいは保土ケ谷ビルの側においてこれを抹消する資金の用意ができなかつた。原告は、本件根抵当権等を抹消して木内建設に抵当権を設定する方法を提案したが、木内建設はこれを拒否し、本件根抵当権等があるままでの受注はできないとの態度を維持したため、木内建設の側で本件根抵当権等の抹消資金を用意することとなつたが、木内建設は同社の子会社である木内ハウジングが本件土地を買い受け、その代金として支払うのでなければ右資金を出せない旨の意向を原告に示した。当初はこれに難色を示していた原告も、原告が自己の所有として残すこととして先に富士スーパーに賃貸予約していた本件区分建物は原告が取得するとの約束のもと、結局これを了解し、昭和五八年七月二九日木内ハウジングとの間で、原告が木内ハウジングに対し本件土地を三億円で売却する旨の売買契約を締結し(乙第一号証の一)、特約事項として木内ハウジングが原告に対し本件区分建物を代金二億五〇〇〇万円で売却する旨売買契約書に記載するとともに、別途その旨の売買契約書を作成して本件区分建物の売買予約をし、同日木内ハウジングから原告に対して本件土地の売買代金三億円(額面二億円と一億円の小切手各一通の交付)が支払われた。
右三億円は直ちに保土ケ谷ビルに貸し付けられ、同社において日本信託銀行及び松井建設に被担保債務を弁済して本件根抵当権等の抹消を受けた上、同日木内ハウジングに対し同日売買を原因とする本件土地の所有権移転登記がされた。
(三) もつとも、原告は、保土ケ谷ビルが木内ハウジングから三億円を借り受けた見返りとして、原告が木内ハウジングに対して代物弁済又は譲渡担保として本件土地の所有権を移転したもので、売買は単なる形式に過ぎないと主張しており、なるほど、本件土地の売買に至る経過を見ると、当初は本件土地の所有者であつた原告が木内建設に対して本件ビルの建築を請け負わせる予定であつたところ、原告あるいは保土ケ谷ビルの側で本件根抵当権等の抹消資金三億円の都合がつかなかつたことから、木内建設の側で右三億円を都合する方向で話が進められ、その結果として本件土地の売買契約書が作成されることになつたものであり、証人野村友春の証言及び原告代表者福田雄次郎尋問の結果によると、その売買代金も本件土地の時価を評価して決められたのではなく、本件根抵当権等の抹消に要する金額である三億円に合わせたに過ぎないものと認められる上、前掲乙第一号証の二(覚書)において、原告と木内建設とが本件ビルの請負契約締結を前提とするが、本件根抵当権等が存在するため、これを抹消すべく原告と木内ハウジングが本件土地の売買契約を締結する旨記載され、原告の帳簿上の処理でも本件事業年度において本件土地が資産として計上され、木内建設からの借入金三億円及び保土ケ谷ビルに対する仮払金三億円がそれぞれ計上されているところである(右帳簿処理の事実は当事者間に争いがない。)
(四) しかしながら、本件土地が代物弁済又は譲渡担保として所有権移転されたとする原告の主張は、以下に述べるとおり採用できない。
(1) すなわち、本件土地の売買契約は、前記認定のとおり、売買としてでなければ資金を出せない旨の木内建設の意向により売買の方法で処理されたのであつて、右売買の代金として三億円が授受され、その旨の領収書が発行されている(前掲乙第二号証)のはもとより、右売買を原因として木内ハウジングに本件土地の所有権移転登記がされ、同社においても右売買により本件土地を取得したとしてこれを資産に計上し、保土ケ谷ビルに対する貸付金三億円の計上はしていないのである。
(2) しかも、原告は、売買は単なる形式であつて、原告が木内建設から三億円を借り受けた上、木内建設に建築を発注した旨るる主張しているが、証人野村友春の証言及び原告代表者福田雄次郎尋問の結果と弁論の全趣旨によれば、木内ハウジングと保土ケ谷ビルとの間で肝心の三億円の金銭消費貸借契約書が作成された事実はなく、利息の取決めもなされていないばかりか、原告を注文者とする本件ビルの建築工事請負契約書が作成されたこともなく、原告において本件ビルの売主として分譲契約を締結した事実はもとより、その分譲代金が原告の収入となつた事実もないのであつて(却つて、原本の存在と成立に争いのない乙第二〇号証及び証人野村友春の証言によると木内ハウジングが本件ビルの売主として売買契約の締結をしてその分譲を行つていたことが明らかである。)、当初の話はともかくとして、最終的には、木内ハウジングが木内建設との間で本件ビルの建築請負契約を締結して本件ビルの分譲を行つていたといわざるを得ないのである。
(3) また、本件土地の売買代金額についてみても、前掲甲第五号証によると、原告は、本件ビルの三階以上の部分を分譲し、その代金で一切の費用を賄い、本件区分建物は自己の所有として残す予定で本件ビルの建築を開始し、当初の計算では、分譲部分の売上が三億六〇〇〇万円で、工事費用等の支出が三億三六〇〇万円必要であるとして、本件区分建物を自己の所有として残した上、約二四〇〇万円の利益を見込んでいたと認められるのであるから、原告が本件土地を三億円で売却して本件区分建物を二億四四五〇万円で貰い受けた場合に、原告に耐えがたい損失が生じるとは認めがたい上、後に認定する本件土地の取得原価と対比しても本件土地の売買代金が特に低廉であるとはいえないことからすると、本件土地の売買代金額が本件根抵当権等の抹消に必要な金額をそのまま代金額として当てはめたとものであるにしても、その金額が売買代金として特に不自然であるともいえないのである。
(4) 以上のように見てみると、原告は木内建設の要求に屈して本件土地の売買に応じたもので、本件土地の売買契約書が前記覚書(前掲乙第一号証の二)に記載された趣旨、目的をもつて作成されたものであるとしても、結局のところ、取引の実態としては、形式はもとより実質においても売買としての処理がされたものと認められるのであつて、右売買により本件土地の所有権は木内ハウジングに移転し、もはや原告において、本件土地の売買を否定して自己の所有権を主張できる地位にはなかつたものと解されるのである。
なお、本件事業年度において本件土地を資産として計上した上、木内建設からの借入金三億円及び保土ケ谷ビルに対する仮払金三億円をそれぞれ計上していた原告の帳簿処理は、いずれも前後の客観的事実と齟齬する裏付けのない一方的処理であつて、前記認定を左右し得るものではない。
(5) してみると、本件土地が代物弁済又は譲渡担保として所有権移転されたとする原告の主張に沿う原告代表者福田雄次郎の供述部分は、以上に照らして採用できず、他に前記認定左右するに足りる証拠はない。
(五) なお、原告は、三億円の金銭消費貸借契約と不動産の交換契約(本件土地と本件区分建物との交換)との混合契約であるとも主張しているが、前記認定のとおり本件土地及び本件区分建物についてそれぞれ売買契約書の作成と代金の授受がされているにもかかわらずこれを交換と解すべき根拠は本件全証拠によつても見出し難く、右主張も採用できない。
2 本件更正処分の課税根拠
(一) 所得金額について
以上に認定したとおり、原告は昭和五八年七月二九日本件土地を代金三億円で木内ハウジングに売却し、同日これを受領しているので、この事実に基づいて原告の本件事業年度の所得金額を計算すると、左記のとおり、申告欠損金額に土地譲渡収入計上漏れ金額及び雑費否認金額を加算した金額から土地譲渡原価認容金額を控除した一億八二九三万八三五三円となる。
(1) 申告欠損金額 七七五万二九八七円
原告が昭和五九年一二月二五日付けで被告に提出した本件事業年度の法人税の確定申告書に記載された欠損金額である(右欠損金の存在と金額は当事者間に争いがない。)。
(2) 土地譲渡収入計上漏れ 三億円
原告が本件事業年度の法人税申告において申告しなかつた(この点は当事者間に争いがない。)、本件土地の売却代金三億円である。
(3) 雑費否認 三四九万九七八〇円
原告が雑費勘定に計上した金額のうち使途が明らかでないため損金算入を否認して所得金額に算入した金額である(右金額について損金算入を否認されることについては、原告もこれを争わない。)。
(4) 土地譲渡原価認容 一億一二八〇万八四四〇円
右(2)の土地譲渡収入に対応する原価であり、その内訳は別表二記載のとおりである(この金額が経費となることについては当事者間に争いがない。)。
(二) 課税土地譲渡所得金額について
前掲乙第三号証によると、原告は昭和五三年九月三〇日に本件土地を取得したと認められるところ、前記認定のとおり、原告は本件事業年度中の同昭和五八年七月二九日、本件土地を木内ハウジングに三億円で譲渡しているので、原告の課税土地譲渡所得金額は左記(1)の金額から(2)、(3)、(4)の各金額を控除した金額一億三三〇六万三三九円となる((2)、(3)、(4)の各金額を控除することについては当事者間に争いがない。)。
(1) 土地の譲渡等による収益の額 三億円
措置令三八条の四第四項一号に規定する譲渡の対価である。
(2) 右原価 一億一二八〇万八四四〇円
措置令三八条の四第五項一号に規定する譲渡直前の帳簿価格である。
(3) 負債利子 三二四七万六三三三円
措置令三八条の四第六項一号の規定に基づいて計算される、本件土地保有のために要した負債利子の額である。
(4) 販売及び一般管理費 二一六五万〇八八八円
措置令三八条の四第六項二号の規定に基づいて計算される、本件土地譲渡のために要した販売費及び一般管理費の額である。
(三) したがつて、原告の本件事業年度の所得金額は一億八二九三万八三五三円であり、課税土地譲渡所得金額は一億三三〇六万四三三九円であるから、これと同一金額を認定してされた本件更正処分は適法である(別表一記載の「納付すべき法人税額」の計算にも誤りはない。)
3 措置法六五条の七の適用の有無
原告は、本件土地の譲渡について措置法六五条の七に規定する特定の資産の買換えの場合の課税の特例措置が適用になる旨主張する。
しかしながら、成立に争いのない乙第一〇号証の二、原本の存在と成立に争いのない乙第一一ないし第一三号証、第一四号証の一、二と弁論の全趣旨によると、原告は、昭和五八年七月二九日付けで木内ハウジングとの間に本件区分建物を代金二億五〇〇〇円で買い受ける旨の売買契約書を作成し(その後の仕様変更により代金は二億四四五〇万円に変更された。)、本件ビル完成後の同昭和五九年六月一二日本件区分建物の引渡しを受け、同日売買を原因として同日所有権保存登記をしたこと、本件区分建物の代金は、保土ヶ谷ビルが第一火災海上から融資を受けた金員と保土ヶ谷ビルが振り出した約束手形及び小切手によつてその頃支払われたことが認められ、右事実によると、原告が買換資産である本件区分建物を取得したのは本件事業年度ではなく翌事業年度中の昭和五九年六月一二日であると認められるから、原告が措置法六五条の七第一項(但し、昭和六〇年三月法律第七号による改正前のもの)に規定された課税の特例を翌事業年度に受けるためには、本件事業年度において同条の八第一項(但し、昭和六〇年三月法律第七号による改正前のもの)に基づく特別勘定の繰入を行い、確定申告の際に同条の八第七項(これにより準用される同条の七第五、第六項)により大蔵省所定の書類を添付しなければならないところ、そのいずれもがなされていないことは弁論の全趣旨によつて明らかであるから、原告が本件土地の売買に関して右特例の適用を受ける余地はなく、したがつて、原告の右主張も失当である。
4 本件賦課決定の根拠
原告が本件土地の譲渡に伴う所得の申告をしなかつたことは当事者間に争いがないところ、前記各認定事実によれば、被告の主張するとおりの金額を過少申告加算税として賦課すべきものであるから、被告がした本件賦課決定は適用である。
三 よつて、本件処分に原告主張の違法はなく、原告の請求には理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 渡邊昭 裁判官 宮岡章 裁判官 今中秀雄)
別表一
〈省略〉
別表二
〈省略〉